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2014年4月24日木曜日

東直子『らいほうさんの場所』(講談社文庫)

面白い。ぐいぐい物語に引き込まれてしまう。ポジティヴなことばかり言っている女性占い師が、限りなく不幸に落ちこんでいく話。東直子の女性を見る眼がリアルで恐い。「若い肌を目の当たりにすることで、自分の水分のぬけてきている手の甲が気になってしまう。」なんてところがいい。
何度決意をしても、自殺未遂までしても、家族の物語からは抜けられない。どういう呪いがかかっているのか、らいほうさんの場所には何が埋まっているのか、さっぱりわからないまま小説は進んでいく。藤谷治さんはこの本を評して、文章は普通なのに気持ち悪さがぐんと迫ってくる、と言っていたが、そのとおりだ。
そもそも、この気持ち悪さはすべての家族に付きまとうものなのではないか。単に子供の役をやっている、親の役をやっている、なんて自分では思っていても、そうした物語の力のほうが個人よりもよっぽど強い。友だち親子なんてうそぶいても、その毒から逃れることなどできはしない。人間が生きることの気持ち悪さを直視する東直子は、ずいぶん勇気のある書き手だと思う。
彼女の歌は、頭で書かれていない。だから人間の業を掴むことができる。最近流行りの、洗練された、知能指数の高い、遊び心に満ちた作品にはない力を彼女の書くものには感じる。 僕はそういう作品が好きだ。