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2014年4月2日水曜日

デビッド・D・バーンズ『いやな気分よさようなら』(星和書店)

物事が上手くいかない。人間関係がこじれる。どうして自分はダメなのか。そして限りなく自分を責め、落ちこんでいく。
生きているかぎり人間は自分と一緒にいるしかないし、自分は自分に合う考え方しかしないので、どうしても自分の考えが正しいように思ってしまう。でも、と本書は言う。それって反論の余地はないのかな。あるいは、現実に則した考え方なのかな。
1980年にアメリカで出版されて以来、多くの人々を救ってきたのがこの『いやな気分よさようなら 自分で学ぶ「抑うつ」克服法』だ。認知療法をわかりやすく解説したこの本は、自分が自分に対して行う攻撃を、現実に則して効果的に反論し跳ね返す方法を教える。キーワードは「認知のゆがみ」だ。
なぜかはわからないが、僕たちは自分に不利になるように現実を捉える思考の癖を持っている。バーンズによれば、それは10のパターンがある。それを認識して、そのパターンのおかしさをきちんとつかめば、もっと現実に則して考えることができる、というのが認知療法の基本的な思考法だ。
具体的には以下のとおりである。

1 全か無か思考。うまくいくか、完全な失敗かの二つしかないと考えてしまう。でもそんなことある? 実際はいつもその中間なんじゃないの。
2 一般化のしすぎ。一つ上手くいかないと、いつもなんでもうまくいかないと思ってしまう。でも上手くいくときもあれば、上手くいかないときもあるのが現実じゃないの?
3 心のフィルター。一つ悪いことがあるからと、そのことばかり考えて人生すべてが暗くなる。でもさ、いいことだってたくさんあるよね。
4 マイナス化思考。上手くいったことは自動的に無視して、できないこと、失敗したことばかり覚えている。そして自分を責めたててしまう。でも、ちゃんとできたことって毎日いっぱいあるよね?
5 結論の飛躍。無根拠に悲観的な結論を出す。
a心の読みすぎ。あの人は私が嫌いだからこうしたんだ。でもそんなことどうしてわかる? 他人の気持ちが直接わかればあなたは超能力者だ。
b先読みの誤り。このまま事態は悪くなるに違いない。でもそれがわかればあなたは予言者だ。
6 拡大解釈と過小評価。自分の欠点は拡大解釈、他人の長所も拡大解釈し、自他を比べて落ちこむ。でもそんなに自分はできない人間かな。そんなに他人はできているのかな。
7 感情的決めつけ。こんなに落ちこんでいるんだから現実は最悪に違いない。でも、自分の感情が正確に世界を反映しているんだろうか?
8 すべき思考。「~したい」ではなく、「~すべき」「~すべきでない」というべき思考で物事を考える。するとできない自分を罰し、できない他人を攻撃するようになる。でも大抵のことは、やってもやらなくてもいいのでは? そんなに固く考える必要ってあるのかな。「べき」は法律で十分では。
9 レッテルはり。一つ失敗をすると、どうせ自分は「ダメ人間」だ、と思ってしまう。でも100%ダメなばかりの人っているのかな。いちどレッテルを張るといつもそうだと考えがちだが、それは現実に則していないのでは。
10 個人化。近くに辛そうな人がいると、自分のせいでその人が辛いのでは、と思ってしまう。でもさ、それじゃあ他人の気分は全部自分の責任なのかな。他人すべてをコントロールする力があるゆえに責任も持つ、ということならば、あなたは神に近い存在になってしまう。でも実際にはただの人間だよね。(35ページより)

これだけでも僕は強い衝撃を受けた。いやあ、自分は認知がゆがみまくっているな、と思ってしまった。
認知を正していく方法は本書に細かく書いてある。おそらくどんな人も、一読したら気持ちが軽くなることだろう。実にありがたい。存在することが奇跡のような名著。